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単記事選択: #60

#60 つかみ合い / funai [960821(Wed) 00:07]
<<あんまりお見せしたいようなカオじゃないんで「顔画像」はパス。すまん。
 
大体、今日は非常に虫の居所が悪かったのだ、俺は。
病院へ行く母を送りがてら乗った電車の隣に座った金髪のヤンキーは
組んだ足でもって俺の膝をケトバしてくるし(母が話しかけてくるので
メンチが切れないのだ、しかも)、1日だけの盆休みで神戸から新開地までの
地下の飲食店は軒並み臨時休業で、それで俺は「サノヤ」で受け取ったセトモノの
紙袋を提げたまま国道を兵庫駅の近くまで歩いて、大してうまくもない一見のソバ屋で
カモナンバを食って、店を出たわけ。
 
ちょうど信号が青だったから2号線を渡ろうとして、ソバ屋の前、横断歩道の側から
車道へ出た。反対側から右折してくるタクシーが見えたが、大丈夫だろうと踏んだ。
が、これがあんまり大丈夫じゃ無かった。そのタクシーがブレーキを踏んだのは
こっちが渡り出してからだいぶ経ってからで、俺の右足の横10センチくらいのとこに
バンパーが来てようやく車は止まった。運転手がなんか怒鳴りながらクラクションを
鳴らしっぱなしにするのだが、俺はクラクションの音が大嫌いなのだ。ああ。やめれ。
たまたまバッチリの位置に、バックミラーが飛び出ていた。
で、俺はそれを右手でバカンとひっぱたいて道路を渡った。何故そうしたかは解らん。
 
道路を渡ってしばらく歩いてから、横道にそれた方がいいかなと思った。けど、
俺のように目立ちやすいナリの人間がそんなことやってもしょうがないかってんで
そのまま歩いた。歩きながら「追っかけてくる確率は半々ってとこかな」と思った。
別に根拠がある訳ではなかったけど、まあとにかく後からタクシーはやって来た。
 
タクシーは歩いてる俺の10メートルばかし前の歩道に横付けして停車して、
ドアが開いて運転手が出てきた。ここでも逃げるチャンスはあった訳だが、
俺は立ち止まって、わめきながら詰め寄ってくるゴマ塩頭のおっさんをただ見ていた。
「おまえ、俺のクルマになにさらすんじゃ!警察行くかコラ」
なにか言い返そうと思ったのだが、とっさに言葉が出てこない。胸ぐらを掴まれたので
殴ってくるかと思ったが、おっさんは俺をゆすぶりながら同じような言葉を叫び続けた。
「じゃかあっし!歩行者優先て知らんのかおっさん!」
とかなんとか、あんまり説得力の無い言葉をそれでも大声を出すためだけに叫びながら、
俺もおっさんの胸ぐらを掴んでたがいに怒鳴り合い、揉み合った。
 
おっさんは俺より頭一つくらい小さかったのだが、俺はすごい力で車のボンネットに
押し付けられて、半分のけぞりながらおっさんとバチッと目を合わせた。
大して怖いとは思わなかった。けど、おっさんの充血して濁り切った目を見ている内に、
俺の敵意は急速にしぼんでしまった。おそらく仮眠なしで10時間かそれ以上も
走り続けてきたのだろう。変なとこから出て来た俺が見えなかったのも無理はない。
俺を殴らないのは、それがタクシー運転手にとって一銭の得にもならないからなのだ。
 
それでももちろん、俺は怒鳴ることをやめなかったし、胸元の手を振り払おうと暴れた。
にらみ合い、つかみ合ううちに、どこからともなく工員服を着た中年の小男が現われた。
 
そいつは俺たちの側にやって来て、
「あんたら、ケンカはいかん、やめなはれ」
というようなことを脂でベトベトのぶくぶく肥満した顔に笑みを浮かべて、言った。
どこにでもいるバンズイインチョーベー気取りの男。
「な、ケンカはいかん。あとは警察行って話しなはれ、な?」
警察は、いやだ。俺は昔トラックにハネられたとき、被害者なのに拇印を取られた。
今この風体でそんなとこに行ったらどんな目に合わされるかわかったもんじゃない。
 
それで俺は手を離したが、おっさんはまだ俺の胸ぐらを掴んでいた。
「おい、手ェ離せやおっさん」
...しばらく俺とにらみ合った後、おっさんはやっと手を離した。まだにらみながら、
「あやまれ、コラ」「まあまあアンタ」「じゃかあしい!なんじゃお前は!」
 
バンズイインとおっさんが言い合いをしている間、俺は視線を宙に泳がせながら
なるたけ冷静に俺の主張できることを数えてみた。あんまり、ない。法的には。
バンズイインは「まあ、警察行きなはれ。ヤクザみたいな警官が一杯おるわ」などと
大声で言いながら離れていった。俺はシャツの襟元を正しながら、おっさんをにらんだ。
んで、野球部の高校生みたいに頭を下げた。「すんません!」
道路の向こう側でまだバンズイインの声。「警察へ行きなはれ...」
 
ま、あとは下らないから省こう、謝る側も謝られる側もスッキリなんてしてないし、
とにかくこういう訳で俺はまた「現代の若者」へのマイナス票を追加したのだ。
それで俺としてはぶっ叩くなら自家用車のミラーにするべきだったと思ったのだが、
今の自家用車はみんなドアミラーなんだよね、それで犬のクソだらけの歩道を
ちょこちょこ駅まで歩いて帰って来たわけで、もちろん反省はしていない。
こんな話わざわざバラしたらまた俺の人格疑われそうだから書きたくもないのだが、
俺のバカガキぶりと充血目のゴマシオオヤジを記念するためにここに書いてみた。

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